り📚書評家による小説のすゝめ

若手書評家、アートカルチャー系ライターをしています。り📚です。元書店員。独自書評や買った本の話、美術館や観劇の記録などをつけていきます。併設趣味ブログhttps://culture76.hateblo.jp/

書評 / ピップ・ウィリアムズ『小さなことばたちの辞書』

『り📚書店員による小説のすゝめ』

こんにちは。り📚書店員です。

みなさまいかがお過ごしですか?

本日の独自書評はこちら。

ピップ・ウィリアムズさん著、最所篤子さん訳『小さなことばたちの辞書』をレビューします。

『小さなことばたちの辞書』 小学館さんより刊行されています。

 

ことばの力に魅了されるもののための小説『小さなことばたちの辞書』

わたしは『小さなことばたちの辞書』 を読んで、まさにことばの力に魅了されるもののための小説だと感じました。

何年もかけてオックスフォード大辞典を編纂する父とそのコワーカーのもとで育った主人公・エズメ。

辞書作りにはまず「カード」というものが作られると、にわかに聞いたことがあります。

きっと幼少のエズメは自身が満足に読み書きをできない頃から、カードに書かれることばたちに惹かれていたのだろうと思います。

 

言葉の意味そのものではない何かに惹かれていくこの気持ちは、わたしにとって強く共感できるものであり、体感したことのある引力です。

そこからわたしは愛読家となり書店員となりましたが、『小さなことばたちの辞書』の主人公エズメはより立派に、辞書編纂の道を進んでいくことになります。

従来とは少し異なる目線を持ち、ことばのカードを集めていくのです。

辞書と共に歩む女性・エズメ

長編小説『小さなことばたちの辞書』はエズメの大河小説のようでもあります。

その生涯のほとんどをことばと辞書と共にしている清々しい姿勢を尊敬しました。

 

本の好きな人、本の周りで働く人、

それらはみんなワンチームのように感じられて、なんだかとても嬉しくなりました。

書店員という今の仕事を、さらにすきになったと思います。

 

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わたしも幼少より本がだいすきでした。

その思いは幸いにしてぶれることなくここまできましたが、そもそも教育に手の届かない人もたくさんいるのですよね。

日本では感じにくい身分の差を見ました。

そしてことばの身分差。

日本ではむしろ世代差の方が目立つ気がしました。

それを上等できちんとしていることばと、それ以外他に分けるとしたら、辞書を作るような教養のある女性がそうでない方に着目するのは矛盾のようにも感じられ、間違いなくとても大きな一歩であると思います。

例えばことばの力で社会や世界を変える時、活躍するのはエズメのような人ですよね。

もしくは、エズメのような女性かもしれません。

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ことばが残る保証はない?

わたしは『小さなことばたちの辞書』を読み、無形の遺産でありながらも、ことばや芸術のもつ力の大きさをひしひし感じました。

同時に後世に残る保証などどこにもないことを感じ、危うさも感じました。

エズメのようなクリエイティブな視点と力をもつものが公的な記録に残していかなければやがて、ことばも文化も潰えていくのです。

さらにエズメはことばで戦っていくのです。『小さなことばたちの辞書』は戦争も経験する物語です。

 

戦火に恐れ慄きながら、必死にことばを集める主人公・エズメ。

エズメの信念を支持したのはどのような客層だったのでしょうか。

ことばづかいの正統派は誰か

「美しいことば」は存在します。「正しいことば」づかいも。

ではことばの位のベクトルを表す指標はいったい何なのでしょうか。

 

国によって定められた言語の中でも、ことばには様々な種類があることを改めて思い出させてくれるのが『小さなことばたちの辞書』と、『小さなことばたちの辞書』の主人公エズメです。

お金持ちや王族と、片田舎のちいさな家庭では使われることばが違います。

年代層によって流行することばもあるでしょう。

さらに時代の流れによって生まれることばもあります。例えば「コロナ」「自粛」「緊急事態宣言」などのように。

 

どれもがそのことばを使う人にとっては重要なことば。

けれども身分差は存在しているようです。

裕福な家庭に生まれたエズメは、貧しく苦しい暮らしをする女性たちのことばづかいに感銘を受けます。

聞いたこともない言い回しをひとつひとつカードに記し、「それはどういう意味?」と尋ねるのです。

そして辞書を編むときに、そのことばを教えてくれた女性の名前を参考として明記します。

エズメにことばを教えた女性たちは、自分の名前のスペルを見て、自分の名前が書物になるのを見て、大いに喜ぶのです。

対してエズメと近い人柄の女性たちは、エズメのことばづかいの変化に後ろ向きです。

「そんな下品なことばを使うべきではない」と助言する人もいます。

 

「ことばの価値」がどれも等しくて、「すべての人が等しくことばの正統派の使い手になれる」と信じたのはエズメだけだったのです。

『小さなことばたちの辞書』の主人公エズメはことばの元に、徹底的に平等であろうとしました。

好きなことば、嫌いなことば

このエズメの行いは素晴らしいものである。これはすべての小説『小さなことばたちの辞書』を読んだ読者の意見になるのではないでしょうか。

一方でわたし自身、好きなことばと嫌いなことばがあることを自覚しています。

わたしは丁寧で文学的深みのあることばが好きです。

Z世代ではありますが、一発で端的に広いニュアンスを表せるようなことばは決して使いません。

 

見聞きしても好ましくないと思ってしまうからか、親しい人には同じような日本語感を持つ人が多いよう気がしています。

 

これは言語的偏見でしょうか。

もしわたしが辞書を作ることになったとしたら。そのようなことばは排除してしまうかもしれません。

 

一方で、わたしが辞書に載せなかったら「エモい」も「タイパ」も時期に消え失せてしまう可能性は間違いなく頭のよぎることと思います。

自分が使うことばと、価値を見出して語り継ぐことばをわてる努力をしていくべきだと感じました。

 

エズメはどんな気持ちだったのでしょうか。

大人になってから真新しいことばを知ったエズメ。「ことばそのもの」が大好きなエズメ。

きっと、知らないことばが存在しているその「好奇心」を抑えることができなかったのではないかと思っています。

ことばの価値に上位をつけることなど考えなかったかもしれません。

ことばを武器に

このエズメの「好奇心」を武器に、わたしたちはきっと闘うことができると思いました。

 

この国には「言論の自由」という権利が保障されています。「言論の自由」ということばがあります。

それが示すのはすなわち、ことばを多く持つこと主張し戦う力を得るということではないでしょうか。

 

立ち上がるために、何かを訴えるために、まずはそれを言語化できなければいけません。

『小さなことばたちの辞書』の主人公・エズメのように広いことばに関心を持ち、大切に集めていくことは、いずれ自分たちを守ってくれることになるのではないでしょうか。

 

声を上げなくてはならなくなったとき。何か大きなものと戦わなくてはいけなくなったとき。

もしかするといつか来るかもしれないそんな日のために。

わたしも何かの力をここぞというときに発揮するために。

 

エズメのように、ことばを美しいと思う気持ちを持ち続けたいと思います。

ことばの力を信じ、敬意を示し、「好奇心」を忘れずことばと寄り添っていきたいです。

 

終わりに📚

いかがでしたか?

本日の独自書評では『小さなことばたちの辞書』を取り上げました。

小説やことばが大好きな人、本の周りで生きていきたい人。

小説『小さなことばたちの辞書』はそんな読者には特別ぴたりとはまる熱い物語だと思います。

気になっていただけたらぜひ、お手に取っていただけますと嬉しいです。

 

今日のブログはここまでにしようと思います。

日々たくさんの方に読んでいただけているようで、アクセス解析を見るのがとても楽しいです。

 

とても嬉しいです。どうもありがとうございます!

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以上、り📚書店員でした~!

 

 

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