書評 / 川野芽生『Blue』

混じる「戯曲」と「小説」が包み隠すものとは。

こんにちは。り📚書評家です。

みなさまいかがお過ごしですか？

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本日の独自書評はこちら。

川野芽生さん著『Blue』をレビューします。

『Blue』は第170回芥川賞の候補として選ばれた小説です。

集英社さんの『すばる』に初出の上、単行本化されたとても魅力的な小説です。

Ｂｌｕｅ (集英社文芸単行本)

Blue [ 川野 芽生 ]

戯曲と小説の混じる書き出し

この小説の書き出しは、とても印象的な書き方がされています。

「先生」と呼ばれる脚本家が書いた脚本を、演劇部の学生たちが読解をしていくという流れなのですが、しかし、脚本家の書いた脚本にはセリフがなく、学生たちの読解の場面は脚本風に誰がしゃべっているのかがわかるように会話が書かれています。

この独特な表現方法は、『Blue』の書き出しの部分だけです。

全体を読み終えた後、この表現方法がどれくらい力や意味を持っていたのかをわたしなりに考えたところ「主人公をぼかす効果」を狙っているのではないかと思いました。

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『Blue』の主人公をぼかす効果

『Blue』は主人公が誰だかぽんとわからない小説です。

そして主人公のほかにもうひとり、多くを語る目立った登場人物がいます。

そのために主人公が誰かをわかりにくくする書き出しを用いたのだとしたら、とても面白い発想だなと思いました。

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高校の演劇部員たち

舞台は高校の演劇部です。

仲が良い部員たちは、独特のあだ名をつけて呼び合っていたり、敬称を落とした名前で呼びあっています。

そこで読者がよくわかっらないのが、上下関係と、喋っている人間の男女です。

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脚本家先生

脚本を書いている人物は「先生」と呼ばれています。

わたしははじめ、学校の中の教師の誰かにこの脚本を部員たちが依頼をしたのだと流れを読み取っていました。

そのため「先生」という呼び名の同級生であることが分かった場面はとても驚きました。

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大人しい女子生徒

先生こと滝上ひかりさんは、眼鏡をかけた女子生徒で本を読むことが好きで、おとなしくて友達と絡むことがあまり好きではない様子です。

そうした「先生」は演劇部の部員と意気投合することで、セクシャルとジェンダーに関する問題を史実用いて口にするようになっていくのが面白いなと思いました。

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『人魚姫』を紐解く

演劇部のメンバーが演じることになるのは、アンデルセンの童話『人魚姫』に関連するお話です。

その部員たちの様子を描いた小説『Blue』の前半では、『人魚姫』について様々な読解が交わされます。

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『Blue』は『人魚姫』の二重構造

彼らは自分たちが役柄を演じるにあたって『人魚姫』がどのようなお話であったのかを紐解いていくのですが、一方でわたしたち読者にとっては川野芽生さんの小説『Blue』の中で重要になってくる主筋の外的理論として『人魚姫』が用いられているというふうに受け取ることもできるのです。

人形は声を手に入れ、足を手に入れる。

そのことがどのような意味を持つのか、彼らは一生懸命に読解していきます。

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高校生の男女のあり方について

わたしは高校生のこの多感な時期に、これほどジェンダーやセクシャルに切り込んだ話題を男女が混じった場でするだろうかと思い、とても不思議に感じました。

はじめはとてもオープンで賢い、素敵な部活だと感じるに過ぎなかったのですが、その後この演劇部の中では「ジェンダー」がより深く切り込んできているのだということがわかります。

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卒業後の部員たち

『Blue』はきっぱり場面が変わると、今度は高校を卒業し大人になった彼らが演劇部員たちが再会をするシーンとなります。

ここで主に豹変しているのが2人、主人公と「先生」です。

主人公の成長と変化について

主人公の変化については、『Blue』登場人物の部員たちも驚き、話を聞こうとします。

この主人公の心や体の動きは人ごととは思えないほど熱を持っている切実な訴求です。

『Blue』を読んだ読者はきっと、この静秋の現実に胸を痛めることになるかと思います。

この小説『Blue』を読むにあたり、主人公のそうした心境をぜひ大切に、受け取っていただけたら嬉しいです。

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「先生」の成長と変化について

もう1人の変化は部員たちの脚本を描いていた「先生」の周辺で起こります。

ここで「先生」は、高校時代のおとなしくて真面目そうな女の子というキャラクターを大いに覆してきます。

手首には刺青を入れて、独自のファッションをし、髪の毛にカラーを入れる。

自分がしたいようにして、異性からのうけを気ににしない。

そして、自分のことを好きだと言ってくれる同性をふり続けるも、ずっと仲の良い友達を続けています。

その件について「先生」は小説『Blue』の最後で少しだけ語るのですが、 わざと難しく複雑に物事を考えているように見えて、実はとてもピュアな部分もある魅力的な会話だと感じました。

登場人物の中でもすこぶる大人びていて賢く、冷静なキャラクター「先生」が自分の中の熱い理論を論理的に語るシーンは、『人魚姫』の読解について部員達と会話をしていた時の昔の姿とも重なります。

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小説『Blue』の登場人物の中で最も物語に寄り添って生きてきた「先生」という女性。

彼女は『Blue』中において、深く作品に切り込んで、思考をすることが誰よりも好きな人物だったと思います。

「自分の生き方」を「童話の中のお姫様の生き方」と少し重ねて、比べてみた時間が演劇部員たちと過ごした時間だったのかもしれません。

きっと「先生」はそうやってたくさんの物語を読みながら、主人公と自分を重ね合わせて生きてきたのだろうなと感じました。

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主人公が存在あするはずの小説『Blue』中で、主人公以外に目立ちすぎて語りすぎる登場人物として登場する「先生」こと滝上ひかりさん。

彼女はそうした文学少女の象徴として登場し、小説『Blue』中で存在感を色濃く残します。

そんな彼女は、作品中の主人公の心に数えきれないほど寄り添う経験を持ったわたしにとって、とても特別な存在でした。

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終わりに📚

本日の書評は川野芽生さんの『Blue』をレビューしました。

芥川賞候補となった川野芽生さんの最新作は、物語を読解するのが好きなすべての人におすすめしたい小説です。

ぜひ気になっていただけましたら嬉しいです。

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Blue [ 川野 芽生 ]

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