偉大なる建築家ザハ・ハディドを祀るシンパシータワー「東京都同情塔」を読み解く。
こんにちは。り📚書評家です。
みなさまいかがお過ごしですか?
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九段理江さん著『東京都同情塔』をレビューします。
小説『東京都同情塔』は文芸誌『新潮』に掲載ののち、第170回芥川賞を受賞しました。おめでとうございます!
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- 偉大なる建築家ザハ・ハディドを祀るシンパシータワー「東京都同情塔」を読み解く。
- 2人の女性建築家
- 未来を思考する
- 日本語のあり方について
- 犯罪者は誰か
- 新国立競技場にまつわる建築家
- 東京都同情塔に入居できる人物
- 過去の性的被害について
- 建築家ザハ・ハディドを偲ぶ『東京都同情塔』の主人公
- 『東京都同情塔』におけるザハ・ハディド氏の存在
- 終わりに📚
2人の女性建築家
この小説には2人の女性建築家が登場します。
主人公牧名沙羅
1人は日本の女性建築家である牧名沙羅。
彼女は小説『東京都同情塔』の主人公です。若くして既に世界的有名な建築家。サラ・マキナという名前で浸透しています。
彼女はこのたび東京・代々木に新しくできる未来型刑務所の建設コンペを勝ち取りました。
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アンビルドの女王ザハ・ハディド
もう1人の建築家はザハ・ハディド。
2020年東京オリンピックの競技場である新国立競技場のコンペを勝ち抜いたものの、日本側とのトラブルにより、当初のデザインは建築されることがなく終わってしまったという建築家です。
実はこのザハ・ハディドは小説『東京都同情塔』上の架空の人物ではありません。
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実際に東京オリンピックのコンペを勝ち取り、しかしザハ案が白紙化してしまった人物です。
2014年にその生涯をとじました。
主人公・牧名沙羅さんは、ザハ・ハディドが国立競技場のデザインに込めた思想に寄り添いながら、その隣に立つべき未来型刑務所のデザインを練っていきます。
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未来を思考する
主人公は『東京都同情塔』のなかで、建築家の仕事は「未来を志向する仕事」だとしています。
コンペティションの時点ではデザインを記しただけ。
実際にできてもいないものたちを比べ合わせて、1つの案が選ばれる。
街に実際に立ててみてから風景に合わなかったり、問題が生じたりしても、簡単には取り返しがつかない。
建築家の仕事とは、そういった仕事です。
未来を思考し、慎重になる癖がある彼女はもうひとつ、自分の中で日本語を精査する能力が著しく働いています。
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日本語のあり方について
誰にも聞かれない心のつぶやきですら言葉の使い方に注意をし、自分自身の思いつきに対しツッコミを入れる姿もある小説『東京都同情塔』の主人公。
そんな主人公牧名沙羅さんは、何でもかんでも透明化し、横文字にしてしまう日本語の文化に少し疑問を抱いています。
日本人が日本語を捨てたがっているのではないかと考えている主人公。
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他の言語の意味合いで日本語をどんどん薄めていき、AIの生成した日本語に本来の日本語が忘れていくような感覚を覚えています。
そして自分だけはそうであってはいけないという意思があるのか、慎重に言葉を紡いでいくのです。
そんな牧名沙羅さんが今回デザインする未来型刑務所、通称シンパシータワートーキョーでは、過去に犯罪を犯した人を「同情されるべき人々」だと定義をし、快適な暮らしを与える場所として建造される予定でした。
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犯罪者は誰か
犯罪を生んだのは犯罪者の心ではなく この歪んだ社会であるからして、 犯罪者ホモ・ミゼラビリスは刑務所というユートピアの下、圧倒的な庇護を与えられるべきである。
そうした思想のもとに建てられる東京都同情塔。小説『東京都同情塔』内では、犯罪者は適切に裁くべきだとの世論も攻撃的です。
そんな中で主人公がデザイン練っている間に、その建物の名前が「シンパシータワートーキョー」に決定されたという知らせが届きます。
その名前を気に入らなかった牧名沙羅は、年下の恋人であり良き友人に「東京都同情塔」と言う案を与えられ、自身の力で通称として世間に浸透させる目論見を立てます。
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新国立競技場にまつわる建築家
わたしは建築家・隈研吾さんのファンです。
そのために新国立競技場の会話が出てくると、どうしても隈研吾さんの存在を感じずにはいられません。
そして実際にこの小説『東京都同情塔』には隈健吾さんがとても色濃く印象を残していたのではないかと思っています。
しかし主人公・牧名沙羅さんが執着し、尊敬をしているのはあくまでザハ・ハディドさん。
彼女はなぜ隈研吾さんではなく、ザハ・ハディドさんを敬愛しているのでしょうか。
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コンペを勝ち抜いた女性建築家同士だから?
初めに思い当たった可能性として、ともに東京のコンペを勝ち抜いた女性建築家同士であるという仲間心があったのかなと思いました。
建設を担当するか否かよりも自分のデザインのコンペを通すことは、若い建築家にとってきっと大きな出来事なのでしょう。
同じ道を通り過ぎてきた先輩の女性建築家ザハ・ハディドに対する尊敬や、それが無効化してしまった同情の念があったのかもしれません。
私の目には主人公・牧名沙羅さんのザハ・ハディドさんへの執着は異様に映りました。
シンパシータワートーキョーのデザインを考えている際、彼女は新国立競技場が見える距離に滞在し、競技場の近くを散歩します。
「ザハ・ハディドの声をすぐ近くで感じていたい」というような意志をみることができました 。
多くの読者はこの描写に、とても大きなエネルギーを感じとったのではないでしょうか。
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東京都同情塔に入居できる人物
実際に主人公は「東京都同情塔」の建設に成功し、「シンパシータワートーキョー」という正式名前よりも「東京都同情塔」という通称を世間に浸透させることにも成功します。
「東京都同情塔」に匿われ、他者の納める税金でぬくぬくと暮らすことができる入居者の基準は、過去に犯罪を犯した者だけではなくなりました。
同情テストを受け、同情に値する者たちは「東京都同情塔」への入居を認められることとなったのです。
小説『東京都同情塔』の中で、犯罪者に対する慈悲や、犯罪者に対する責任を書いてきたとみなしていたわたしは、そこまでの根底を覆すような画面だと感じてしまいました。
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犯罪を犯した者たちが本当に救済されるべきなのか。
世の中の反応は多様で難しい問題だとは思いますが、そこをぬるくくぐり抜けるために入居者の範囲が広まったのかなと感じたほどです。
少し不自然だと感じた読者もいるのではないでしょうか。
しかし、ここでザハ・ハディドの存在が再び重要になってきます。
「東京都同情塔」建築した牧名沙羅さんは、この建物の中にほんとうに匿たかった人物が1人だけ、いたのではないでしょうか。
過去の性的被害について
主人公の牧名沙羅は、小説『東京都同情塔』の前半でさらりと10代の頃に受けた性的被害について語っています。
自分は怖い思いをしたのに、しかし、世間にレイプ被害を立証することができなかったのです。
そうした経験のある彼女が、犯罪者を無条件に受け入れる建物を建築できるでしょうか。
彼女の意思があって、罪を犯したものでうあはく、もっと広義に同情されるべき人々がすべて匿われる建物と形を改めたのかもしれないと思いあたりました。
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性的被害を受けた女性同士だから?
また、小説『東京都同情塔』の最後には主人公の恋人であり年の離れた友人男性の母親が「東京都同情塔」に入居していることがわかります。
この男性の母親は、10代の頃に性的被害を受け、しかしどこの病院でも中絶を認められることがなく出産を強いられた人物でした。
「東京都同情塔」のデザインを作っている当時の牧名沙羅さんはそのことを知らなかったはずですが、建設後にはおそらくその事実を知っていたのでしょう。
過去の自分と重なるような男性の母親を気にかけている様子が見受けられます。
しかし、わたしは主人公・牧名沙羅さんが「東京都同情塔」に真に匿たかったものとは「ザハ・ハディドの魂」であると読み解きたいです。
ザハ・ハディドさんを祀り、安らかに眠らせるために「東京都同情塔」を完成させたのではないでしょうか。
建築家ザハ・ハディドを偲ぶ『東京都同情塔』の主人公
コンペを勝ち抜いたものの、自分のデザイン思う通りに建設をされなかった 無念な建築家ザハ・ハディド。
彼女の建築では実際にそのような事柄は珍しくなく、彼女は現実でも小説『東京都同情塔』の中でもともに「アンビルドの女王」と呼ばれています。
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2014年に、東京オリンピックの開催を見ることなく亡くなったザハ・ハディド氏。
その晩年は、彼女のファンや、彼女を尊敬している建築家たちにとって、とてもショックの大きなものだったではなかったのではないでしょうか。
小説の中で若干感じた矛盾をザハ・ハディドの存在がすべて回収してくれるように思います。
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『東京都同情塔』におけるザハ・ハディド氏の存在
犯罪者のみならずもっと広義に同情されるべきものを収容した建物「東京都同情塔」。
自身が同情されるべきものであるはずの主人公が「東京都同情塔」コンペに踏み切ったわけ。
新国立競技場に並ぶ建物を作るにあたり、隈研吾さんを一切気にかけずザハ・ハディドさんにのみ心を奪われていた主人公について。
新国立競技場を語るにあたり隈研吾さんは重要人物ではありますが、しかし問題なく手を進めることができた隈研吾さんは「同情されるべき人」には値しないのです。
実は誰にも公表していないけれど、 「東京都同情塔」にて彼女が守りたかった唯一の人物。
女性建築家ザハ・ハディドさんの存在が、主人公・牧名沙羅さんに「東京都同情塔」建設を実現させ、「東京都同情塔」をより世間に受け入れられやすい入居ボーダーに変更させたのではないでしょうか。
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「同情されるべき人」のうちのひとりである主人公が、「同情されるべき人」であるザハ・ハディドさんへ。
代々木でコンペを勝ち抜いた主人公が、同じく代々木でコンペを勝ち抜いたザハ・ハディドさんへ。
偉大なる建築家ザハ・ハディドの魂、ここに眠る。
そのような墓石を立てて、この書籍『東京都同情塔』を供えたいと思いました。
【お得にたっぷり読書しよう】
終わりに📚
本日の独自書評は九段理江さんによる芥川賞受賞作『東京都同情塔』をレビューしました。
いかがでしたでしょうか?
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当記事では個人的読解も多いですが、実際に『東京都同情塔』は空想の余地が広く衝撃的な楽しい小説だと思います。
芥川賞の受賞にあたり、さらなる人気を集めている『東京都同情塔』。
ぜひチェックしてみていただけたら嬉しいです。
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このブログも日々、たくさんの方に読んでいただけているようでありがたいです。
おかげさまでアクセス解析を見るのがとても楽しいです。
とても嬉しいです。どうもありがとうございます!
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以上、り📚書評家でした~!
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