『り📚書店員による小説のすゝめ』
こんにちは。り📚書店員です。
みなさまいかがお過ごしですか?
本日の独自書評はこちら。乗代雄介さん著『旅する練習』をレビューします。
『旅する練習』は文芸誌『群像』に掲載ののち講談社さんより単行本書籍化しました。
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コロナ禍のなごやかで開放的な旅
小説『旅する練習』ではコロナ禍を思わせる不安定な情勢の中で、しかしとてもなごやかな時間が流れていきます。
電車に乗って旅行ができないなら徒歩で歩いて移動すれば良い。
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そうした開放的な思考のもと、主人公と姪はサッカーボールを蹴り続けながら目的地に向かって旅をします。
素敵な人と出会い、たくさんのあたたかい話をしながら、ほんとうに「良い人」と「良いこと」ばかりが登場する小説『旅する練習』。
ほこほことした思いで読んだ小説でした。
小説『旅する練習』になぜアクシデントが起こったか
しかし、終盤にはあまりにインパクトの強い悲しい描写が差し込まれます。
なぜ『旅する練習』というなごやかな小説に「死」の描写が挟まれなくてはならなかったのか。
今回はあたたかな回想文学『旅する練習』の中に起こったアクシデントの理由についてを考えてみたいと思います。
小説『旅する練習』の境界となる部分
『旅する練習』という小説の中には、物語を2分するような境界がみられます。
そこで主人公による回想シーンが終わり、そこからは現在の主人公が今を語りはじめます。
今を語る中で現れてくるのはあまりに悲しい「死」の描写です。
回想シーンと現在の描写との間のどこかの時間で、登場人物の誰かが亡くなる。
それが『旅する練習』という小説なのです。
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このあたたかくなごやかな小説『旅する練習』の流れを一気に覆すような大きな事件。
わたしは始め、この急な展開になかなか適応することができず、この描写が差し込まれた意味もよくわかりませんでした。
人に伝えられない「死」の理由
『旅する練習』では回想シーンと現在の視点の順番をあえていじり、間に空白の時間を作っています。
そのことによって読者に、「この間の時間には何が起こったのだろう」と考えてみてほしいという意図を感じさせます。
では著者である乗代雄介さんは『旅する練習』の中のある登場人物の描かれていない死について、読者にどう想像してほしいのでしょうか。
主人公はある登場人物の死を読者にも周囲の人にもなかなか語りません。
他者に語ることのできない「死」には、例えばどのようなものがあるでしょうか。
他者と語り合うことができず、時折自分の中で蒸し返すその記憶にはどのような種類があるのでしょうか。
ここでは小説『旅する練習』において想像できる3種類のわけを挙げていきます。
1、あまりに無惨な姿での「死」
ひとつ目は、口にするのも恐ろしいくらい異様な姿であった場合です。
異様に無惨な姿でかつて親しんでいた者が亡くなった時、人々は口を閉ざすのではないでしょうか。
周囲の人が大きく打ちのめされてしまったあまりにも酷い死であったという可能性があるでしょう。
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2、他者とのラグがあった「死」
もうひとつは、いかにも登場人物その人らしい亡くなり方であったという可能性でしょう。
この場合は実は主人公が初めから登場人物の死を予想していたというパターンではないでしょうか。
主人公は「いずれこの人物はこういう流れで死にたどり着くであろう」となんとなく想像していた。そしてその通りになってしまった。
周囲と共有はできないくらい主人公はひっそりと想定していた。
しかし周囲の人物にとってはあまりに予想外でその人物らしくないと感じさせる、思いもよらなかった死です。
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さらに自分は想像していたけれども助けてあげることができなかったという場合にも、主人公が自身の中に沈黙する理由があるのかもしれません。
他者とのラグがあった死の場合、まだまだ他者へ明示したり、悲報を伝達することがはばかられるものではないでしょうか。
3、あまりに呆気ない「死」
最後はあまりにも呆気ない死であった場合です。
ちょっとしたタイミングや運命のズレによって、ひょんとこの世界から消えてしまった命を弔うための言葉を見つけられないというパターンではないでしょうか。
実際に小説『旅する練習』で亡くなってしまうある登場人物とはとても若い人物で、しかも前途有望なキャラクターでもあります。
その登場人物の未来しか想像していなかった周囲の人物にとっては、あまりにも呆気ない死であり、口にして思い出すことも恐ろしい死なのではないでしょうか。
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小説『旅する練習』の死の真相
わたしは実は、この3パターンすべての理由が少しずつ『旅する練習』の主人公と、亡くなった登場人物の間には流れているのではないかと感じています。
どれかひとつではなくて、3つともが理由であると考えています。
それは主人公にとって、あまりに悲しく重苦しい出来事であったことでしょう。
人や読者に対して口にすることもできないようなものを、しかしふと思い出してしまってひとりで苦しむということは、誰にしもある経験なのではないでしょうか。
この『旅する練習』という小説は、そうした他者とは簡単に分かり合えないような苦しみの渦中にいる人にぜひ届いてほしい小説だと思っています。
悲しみが悲しみで薄まることなどないれど、孤独をしばし忘れてもらうための処方薬として『旅する練習』という小説はきっと、作用してくれるような気がしています。
終わりに📚
今回は乗代雄介さん著『旅する練習』という小説の独自書評をお届けしました。
いかがでしたでしょうか。
『旅する練習』はなごやかに進み、しかしあまりにインパクトの強い月進み方をする小説です。
そのインパクトの原因である「死」の描写について、しかしこれほど深掘りした書評はなかなかないのではないかなと考えています。
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変わった視点ではありますが、あなたに『旅する練習』という小説を気になってもらうきっかけとなりましたらとても嬉しいです。
このブログも日々、たくさんの方に読んでいただけているようでありがたいです。
おかげさまでアクセス解析を見るのがとても楽しいです。
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とても嬉しいです。どうもありがとうございます!
始まって間もない小さなブログですが、どうぞよろしくお願いいたします。
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以上、り📚書店員でした~!
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