『り📚書店員による小説のすゝめ』
こんにちは。り📚書店員です。
みなさまいかがお過ごしですか?
本日の独自書評はこちら。
佐原ひかりさん著『人間みたいに生きている』をレビューします。
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『人間みたいに生きている』は小説トリッパーに掲載ののち、朝日新聞出版より刊行されています。
食べることができなくても生きていける身体がほしい
『人間みたいに生きている』の主人公・三橋唯さんは女子高校生です。
彼女はタイトル『人間みたいに生きている』のごとく、必死に人間を装って生きています。
中高生の女の子ともなれば、お菓子の交換をしたり、素敵なカフェに遊びに行ったりすることが友情を築き上げるメインイベントとなります。
しかし、この主人公・三橋唯さんは、食べ物を噛み砕いて飲み込むことにひじょうに抵抗を感じています。
食材が「生き物」に見えてしまって仕方がないのです。
ダイエットがしたいわけではない。
女性的生理現象を止めたいわけではない。
ただ「食べること」を「避けたい」だけ。
そんな『人間みたいに生きている』の主人公が知り合うのは、吸血鬼のような暮らしをする男の人でした。
食べ物のにおいがしない館
どんな人でも食べ物をうまく食べることができないぐらい体調が悪いときには、目の前に「おいしそう」な食事が並んでいたり、食事の「におい」がするだけで具合が悪くなってしまうものではないでしょうか。
この『人間みたいに生きている』の主人公、三橋唯さんもまた食べ物の「におい」にも敏感です。
彼女が小説『人間みたいに生きている』の序盤で迷い込むのは、食べ物のにおいがしない館。
そこには吸血鬼のような暮らしをする男の人が暮らしています。
血液を啜るようにして必要なエネルギーを補給しているのです。 固形物や食材を一切口にしません。
『人間みたいに生きている』主人公のシェルターは
『人間みたいに生きている』の主人公・三橋唯さんはこの見知らぬ男の住む館に居心地の良さを感じ、居ついてしまうようになります。
見知らぬ不気味な男の人に心を開くよりも先に、彼女は食べ物のにおいがしない空間に心を開きます。
いつまでもここで過ごしていたい。
そんな安らぎを覚えてしまうほど、主人公は不気味な館に惹かれてしまうのでした。
その安心感はどのような感情からくるのでしょうか。
小説『人間みたいに生きている』の中ではその心理について詳しい描写はなされていませんが、わたしは 主人公の三橋唯さんが「食べ物のにおいが排除されている空間に出会ったのがはじめての経験だった」からではないかと考えています。
「自分と同じような苦労をしている人がいたなんて知らなかった」という安堵も、もちろん大きいでしょう。
しかし、何よりもはじめて出会うこととなった「食べ物のにおいや存在が排除されている空間」に 居心地の良さを感じて、安心しているのではないかと思います。
自分対困りごとの話ではなくて
わたしは佐原ひかりさんの小説には、こうして人に理解されないマイノリティーで疎外感を感じている登場人物が多く登場しているなと思っています。
明確に社会的な名前や病名がついていなくて、困難のわけを他者にうまく説明するのすら困難な登場人物たちです。
今回の『人間みたいに生きている』では、食べたくない理由として、「ただ食べ物を恐れている」人がいるなんて、なかなか想像ができないのではないかと思いました。
年頃の女の子ならば体型を気にしているのかな?などと考えるのが先ではないでしょうか。
わたし自身の視野の狭さも影響しているのですが、きっと「ただ食べることが怖い」という人たちをまだ、世の中はそんなに認知していないと思います。
そうした食べることが怖い主人公・三橋唯さんの「シェルター」となってくれるのが食べ物のにおいがしない館です。
この「シェルター」の外になると、彼女は世間と触れ合うことになります。
大親友も両親も、主人公が食事の時にどんな違和感を抱え、どんな苦労をしているのか知りません。
「よくも隠してこれたな」と感心してしまうほどに、何も匂わせていないのです。
この主人公・三橋唯さんに対し、「シェルター」の外の世間は何かできることがあったのではないでしょうか。
それはただ食べ物を飲み込むことを怖がっている人物に、病名やカテゴリーを与えるといった簡単なことではないと思います。
カテゴリに当てはまらない人の苦労を減らすために、カテゴリーを増やしても意味がありません。
苦労や苦悩はきっと、星の数ほど世の中に溢れています。
名前として居場所を与えるだけでは限界があるのではないでしょうか。
食事について常に疎外感を抱えている主人公の話『人間みたいに生きている』を読んだとき、「わたしについての食事は」「セクシャリティは」といった我慢大会を披露するのではなくて、今回はそんな「ひとり」と「世間」との関係性を考えてみてはませんかというのが、佐原ひかりさんの小説のコアになっているのではないかと考えています。
たくさんの読者が「わたしはね」と打ち明け話をしたいくらい、明言はしていないけれども困っている人はきっとたくさんいるのだと思います。
周りの人が想像できないくらい、困難なポイントはとても細かくて多いです。
多様性を問われる現代に相手を理解しようとして全然わからなかった時、自分の知っているものに当てはめてしまいがちでしょう。
わたしはそうやって考えてしまうことがあります。
それは自分の思考を簡略化するわけでも、相手を軽んじた行為でもありません。
相手に寄り添いたいと苦しんだ結果、自分の知っているものの中から思考をすることになります。
「社会はいつそこから抜け出せるのか」というのがこの佐原ひかりさんの伝えたいことだと思っています。
ただの小説の中の話ではなくて。
あなたの周りの話であって。
でも、あなたひとりの話ではなくて。
あなたの困難や苦悩に寄り添い、救って共感してくれるだけではなくて、そうした「ひとり」対「世間」のあり方を模索させる小説だと思っています。
終わりに📚
本日は、佐原ひかりさん著『人間みたいに生きている』という小説のレビューをしてみました。
いかがでしたでしょうか?
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佐原ひかりさんは『ブラザーズ・ブラジャー』という小説でデビューをされました。
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この小説『ブラザーズ・ブラジャー』は、セクシャリティやファッション性について、うまい社会的ポジションを見つけることができていない登場人物とその家族のお話です。
こちら『ブラザーズ・ブラジャー』も「ひとり」と「世間」の話として読んでみるべき小説ではないかと考えています。
ぜひ併せてお楽しみいただければうれしいです。
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