映画評 / 『TAR / ター』

『り📚書店員による小説のすゝめ』

こんにちは。り📚書店員です。

みなさまいかがお過ごしですか？

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本日は映画評に挑戦してみたいと思います。

昨日見てきた映画がこちら。『TAR / ター』です。

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映画に全く無知な一端の書店であるわたし、り📚書店員の論考ブログです。どうかお手柔らかにお願いいたします・・・。

映画『TAR / ター』

映画にはあまり詳しくないのですが、こちら『TAR / ター』を観た後に「すごい・・・！」と思い、丸一日頭から映画『TAR / ター』と主人公リディア・ターが離れませんでした。

調べてみたところアカデミー賞主要6部門にノミネートされたり、有名な映画賞や映画評者に素晴らしい評価をされている作品だそうです。

事前に明かされていたあらすじは極めてシンプルでした。

ベルリン・フィルハーモニーオーケストラの主要指揮者に女性初の任命を受けたリディア・ター。

実力派と思われる彼女は、マーラーの第5番の録音リリースへ挑戦していきます。

（この5番リハ場面がさいっこうにいいのです！）

素晴らしいパートナーや、素晴らしいソリスト奏者と知り合い、ベルリンでの指揮者生活を謳歌しているかに見えたのですが・・・。

彼女には黒い影が忍び寄ります。

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「信用できない語り手」決定版

先ほどわたしは「黒い影が忍び寄る」と書きました。

このように言われて不穏な空気を察知しない者はいないかと思います。

実際に主人公リディア・ターはかなり恐ろしい思いをして、悪夢にうなされ眠れない日々を送ります。

けれども、映画『TAR / ター』の不気味な点はそれだけではありません。

小説風に言うならば、『TAR / ター』は「信用できない語り手」の手法を凝らした映画作品であると言えるでしょう。

転機となるのはどこか

映画『TAR / ター』を前半後半に区切るのであれば、リディア・ターが大怪我をするその場面が境になるのではないでしょうか。

そして怪我をしてから先の後半場面は、情景の説明や他者との会話が驚くほどに削がれていきます。

実際、ビジュアルとして見せられない部分も多いのです。

リディア・ターの発言と、視聴者のわたしが推測することとの間に齟齬が生じていきます。

「そんなはずはないと思ったんだけどなあ」というようなことをリディア・ターは口走っていくのです。

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「神経」の意

この大怪我とは顔の擦り傷とともに背中のあたりを痛めたもの。

医者には「神経を痛めているのでしばらく静養するように」と言い渡されています。

憶測としてはこの「神経」をアメリカンジョーク的に生かしているのではないでしょうか。

脊髄神経や脳反射などの肉体的な「神経」と 精神的な負荷や神経耗弱などの「神経」を掛け合わせたのがこの場面だったのではないでしょうか。

リディア・ターの体の傷は徐々に回復をするのですが、精神的な「神経」の異常を克服することがなかなか難しくなっていってしまったかのようです。

主人公の記憶が怪しかったり、主人公が心の病を患っていたりするのは、叙述トリック「信用できない語り手」の格好な舞台設定となります。

ヴァイオリニストのパートナー

ある時突然ぱっと現れて、広くて清潔な自宅で共に暮らしているパートナー。

よくよく見ると、ベルリンフィルの第一バイオリンの1人です。パートリーダーのような存在なのかもしれません。

リディア・ターとバイオリニストの女性パートナーとのあいだには娘がいます。

そしてとてもなごやかで互いを思いやるような生活をしているのですが、ある時、なごやかな生活には亀裂が生じます。

その理由もいまいち明確には明かされないのです。

夜中の不思議

バイオリニストのパートナーと暮らしている自宅。

ある日から不審な音がしたり、夜中に不安をかき立てられるようなことが自宅内で多く起こります。

一時は悪い人が家の中に隠れて、忍び込んでしまっているのではないかとハラハラさせられました。

ある時突然ばあっと相手が出てくるような気がしてならなかったのですが、家の中で不審な人物を見かける事は結局なく、原因を突き止めることができなかったのです。

視聴者としては飛び上がるような 恐ろしいシーンがなかったことをありがたいと思いたいのですが、一方で、少し考えて冷静になってみたときに、この犯人はバイオリニストのパートナーでしかなかったのではないかと思ってきました。

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チェリストの少女

同じ頃にベルリンフィルに新しく参加することになったチェリストの少女がいます。

彼女はロシア人で、クラシック音楽を「クラシックの形」では愛していないような少女です。

レコードやCDではなく、指揮者にも特に興味はなく、YouTubeで音楽を聴いてきた世代であるのでしょう。

 

レストランでの顔合わせ

主任指揮者マエストロであるリディア・ターと顔合わせの食事をするシーンがあります。

彼女はメニューを眺めながら自分はベジタリアンであることと、野菜料理がこの店にはないのかということをつぶやきます。

そして店員を捕まえた時、オーダーする料理とは一体何でしょう。

これはただの笑いを誘う点だと捉えて良いのでしょうか。

これから上司となるはずの人物の前で、これほど遠慮がなく、ガツガツと振る舞る姿にはなんだかびっくりしてしまいました。

若さの表れかとも思ったのですが、後半ニューヨークで共に旅立つシーンでわたしはこのチェリストの少女を疑うこととなりました。

よくよく考えてみればオーケストラの面々が集まる場面で、バイオリニストのパートナーとチェロの少女はたびたび目配せをしています。

そしてリディア・ターに「新人が決まった」「チェロのロシア人だ」と言うことをはじめに話していたのは、このバイオリニストのパートナーだったのです。

パートナーとチェロの少女

自宅に招くようなシーンも、パートナーとチェリストの少女が会話をする場面シーンも1度もないのですが、リディア・ターをはめたのはこの2人の共謀によるものであると考えざるをえません。

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ライブオンラインチャット

はじめと、中盤に1度登場したオンラインチャットでリディア・ターの悪口を言う場面。

誰が誰に対して送っているのかずっと謎だったのですが、ニューヨークのあるシーンでその1人がチェロの少女であることに気が付きました。

そして送信先の相手は誰だろうかとわたしが推測したのはパートナーのバイオリニストです。

ちなみに、この映画『TAR / ター』の導入は個人的に興味深いと思いました。

まずこのチャットで文面のみでの語りが始まります。

その次に衣装合わせをしながらナレーションが音声で入ります。

文字か言葉。どちらかに統一をせずに、どちらも投げかけてきたのはどのような意図でしょうか。

そしてなぜ逆ではなくて、文字での視覚アプローチから始めることをにしたのでしょうか。

一般に、序盤には音声があった方が引力が強いように思うのです。

伏線の投石か、さもなくば＠この映画を観に来るものは、序盤から期待あらわに参加してくれる」という自負だったのでしょうか。

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助手のフランチェスカ

ベルリンフィルの主要指揮者・マエストロであるリディア・ター。

彼女には当然のように助手がついています。

絶妙なタイミングでの助手の仕事ぶりにパートナーシップを見せつけられました。

この助手の少女フランチェスカも、若手の指揮者であることが推測されます。

ある時ばったりとフランチェスカは、リディア・ターやベルリンフィルのもとを去るのです。

そのほんの直前にフランチェスカが気にしていたことといえば、「クリスタ」という人物の訃報でした。

フランチェスカの退職も明確な理由が表に出てきません。

上映中は元ボスであるマエストロのリディア・ターに自分の副指揮者として認めてもらえなかったことが悲しかったのではないかと思いました。

それにしてはフランチェスカが参加した最後の劇場でのリハーサルで、彼女が涙していた意味がよくわからないのです。

確かに「自分が副指揮者になってベルリンで活躍をしたかった」という思いの涙と取ることもできます。

ですがわたしが思うに、フランチェスカはボスであるリディア・ターをこれから見放さなくてはならないことに悲しみを感じていたのではないでしょうか。

そのために涙を見せたのがリディア・ターがベルリンで全盛期を誇る、マーラー5番が完成にほどなく近づいてきたタイミングだったのではないでしょうか。

フランチェスカはリディア・ターの敵側ではなくて、圧倒的にリディア・ターの見方であった。

それゆえにリディア・ターを疎ましく思う者たちによってはめられてしまったか、強制的な退職を強いられてしまったのではないかと考えたいです。

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クリスタとフランチェスカ

フランチェスカの突然の退職を検討するには、わたしは「クリスタ」が重要なモチーフとなるのではないと思いました。

前半と後半で大きな動きを見せるものの、基本的に1人の人間主人公の日常をつなぎ合わせた映画『TAR / ター』。

そこに気になるシーンが挿入されているのです。

水面にぽつりとベッドが置いてあり、そこに人が横たわっています。

彼女が誰なのかを判別しようと目を凝らしているうちに、胸のあたりに小さな発火があることに気がつくのです。

その火はめらめらとどんどん大きくなっていきます。

この映像をリディア・ターの見る悪夢と捉えることもできましょう。

けれども他の悪夢のシーンと違って彼女がはっと起き上がることがないので、悪夢である可能性は考えづらいです。

となると、わたしはこれがフランチェスカの自死を意味するのではないかと考えました。

リディア・ターはクリスタと フランチェスカという2人の「自分を尊敬してくれる若い才能」を殺してしまうことになったのでしょうか。

ちなみにこのシーンの解釈について、一緒に『TAR / ター』を観た人に尋ねてみました。

すると

「自分の中で小さく発生した火がどんどん大きくなっていってしまう」首の閉まる感じを具現的に表現した場面かと思った。

というようなことを話してくれました。なるほど。

内面の葛藤を目に見える形で表現するのは、「映画」ならではの技法であり、『TAR / ター』ほどの映画作品であれば活用しないはずがない気もしてきました。

（その人はわたしよりもずっと映画カルチャーに強い人です。🙏貴重な意見をありがとう・・・！）

余白の多い映画『TAR / ター』

このように映画『TAR / ター』はひじょうに余白が多く、「語られる事」と「見せられるもの」とのギャップもなかなかに大きな作品となっています。

映画館を出た後はとにかく虜になってしまって、他のことが手につかないくらい、わたしは映画『TAR / ター』とリディア・ターの虜になってしまいました。

何よりも大きな転落を見せるシーンは最後でしょう。

「どういうこと？」と思うような結末になります。

映画序盤の インタビューでは客演指揮者を若干見下したような発言をし、「クラシック」を「ベルリン」で「マエストロ」として振ることに誇りを持っていたような様子のリディア・ターでした。

それが一体、彼女は何を指揮することになるのでしょうか。

ぜひ劇場でおたのしみ下さい〜。

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終わりに📚

本日は当はてなブログ『り📚書店員による小説のすゝめ』初の映画評に挑戦してみました。

わたし自身映画についての論考を書くのは初めてで、おっかなびっくりです。

拙い文章ですが、お読みいただきどうもありがとうございました。

今日のブログはここまでにしようと思います。

日々たくさんの方に読んでいただけているようで、アクセス解析を見るのがとても楽しいです。

とても嬉しいです。

どうもありがとうございます！

始まって間もない小さなブログですが、どうぞよろしくお願いいたします。

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以上、り📚書店員でした～！

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