すみれの花の記憶を綴じ直す。春の訪れのような再生の物語『その本はまだルリユールされていない』
こんにちは。り📚書評家です。
みなさまいかがお過ごしですか?
本日は、季節の変わり目にふと手に取りたくなる、そして読み終えたあとには自分の人生を少しだけ愛おしく思えるような、美しい1冊をご紹介します。
坂本葵さんの小説『その本はまだルリユールされていない』の書評です。
ずっと気になっていたこのタイトル。
実際にページをめくってみると、それは物語や本そのものを、いままでよりもずっと深く、切実に好きにならせてくれる魔法のような小説でした。
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実はわたしは「すみれの花」が少し苦手です。
可憐で、控えめで、春の訪れを告げる愛らしい花。
誰もが好感を抱くであろうその花に対して、わたしが複雑な感情を抱いているのには理由があります。
それは過去にすみれが由来な名前を持つある女性との間に、苦い記憶があるからです。
記憶にこびりつく花の香り
記憶というものは不思議なもので、視覚的な情報よりも「香り」や「名前」に強く宿ることがあります。
わたしにとって、すみれの花のあの独特な紫色は、彼女との間に起きた「いざこざ」や、そのときに感じたやるせなさ、苦味といった感情と分かち難く絡み合ってしまっているのです。
そしてわたし自身の名前もまた、花に由来しています。
「茉莉花(まつりか)」、ジャスミンのことです。
わたしの名前の「り」の字は、「莉」と書きます。
すみれと同じように小さく、色は薄く、ときには紫色の花をつけることもある植物。
どこか似ているからこそ、余計に反発し、苦手意識を持ってしまったのかもしれません。
そんなわたしが、すみれ色のこの小説『その本はまだルリユールされていない』のページをめくって最初に出会ったのは、まさにその「すみれ」でした。
人生の流れに身を任せるようにして図書館司書になった主人公。
彼女が出会う、すみれの花がとても美しく似合う物静かな女性。
そして、彼女が大切にしている『菫(すみれ)の花の片隅で』という詩集。
普段ならわたしが身構えてしまうはずのモチーフが、坂本葵さんの小説『その本はまだルリユールされていない』のなかでは、驚くほど静謐に、そして優しく描かれていました。
それはまるで、わたしのなかで硬く絡まっていた記憶の結び目を、著者の坂本葵さんがそっと解いてくれるような感覚でした。
「ルリユール」という魔法
小説『その本はまだルリユールされていない』タイトルにも含まれるワード「ルリユール(Reliure)」という言葉は、フランス語に由来するそうです。
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