『り📚書店員による小説のすゝめ』
こんにちは。り📚書店員です。
みなさまいかがお過ごしですか?
本日の独自書評はこちら。
寺地はるなさん著『ガラスの海を渡る舟』をレビューします。
- 『り📚書店員による小説のすゝめ』
- タイトル『ガラスの海を渡る舟』
- 『ガラスの海を渡る舟』は「大切な人と歩み寄ろうと時間をかけている登場人物たち」の話
- 発達障害の兄とその家族
- 『ガラスの海を渡る舟』家族の構造
- 「たった今の自分」を愛すということ
- くっきりしている2つのモチーフ
- 終わりに📚
- 価格: 1760 円
- 楽天で詳細を見る
タイトル『ガラスの海を渡る舟』
ガラスの海を渡る舟。
このタイトルには繊細で透明で、触れたら怪我をしてしまうような鋭さを感じました。
粉々のガラスが集まって波打つように見えるイメージをしました。
初めに出てきた人物の名前の「羽衣子」というネーミングにはタイトルとのすごいコントラストを感じます。
読んでいるうちに「ガラスの海を渡る舟」とは、吹きガラスを制作しているときのある人物のイメージから来たタイトルだと分かります。
『ガラスの海を渡る舟』小説作中を読んでいくと今度は、素早い手作業の様子、模様が想像できないほど自由に広がっていく様子、また空気を吹き込んで丸くなった様子と、ガラスの丸く寛容な意外な一面を見ることになります。
そんなタイトルの二面性がとても反響していて素敵だと思いました。
『ガラスの海を渡る舟』は「大切な人と歩み寄ろうと時間をかけている登場人物たち」の話
発達障害。意外だなと思ったのが、おそらく発達障害ではないかと思われている道さんの章において、他者の表情や感情を汲み取ろうとする能力がひじょうに高く見られたことでした。
本人・道さんよりも妹・羽衣子さんの方が感情が激しく揺れ動き「情緒不安定」という言葉も出てくるほどです。
つまりこの小説『ガラスの海を渡る舟』は「家族の中にひとり変な人を抱えてしまった人たち」の話ではないのでしょう。
「大切な人と歩み寄ろうと時間をかけている登場人物たち」の話ではないでしょうか。
発達障害の兄とその家族
もちろん発達障害にもいろいろな種類あります。
それ発達障害を抜きにしても、でもこれほどまでにお互いの長けているところを認め合えている仲はあまり聞いたことがないです。
『ガラスの海を渡る舟』の「この家族なら、大丈夫」と思わせてくる何かがあります。
小説の中だけでなくわたしたちも、何かの障害の有無に関わらず、その人の中での得意不得意はあるはずです。
ごく一部の人を除いては、全部の分野能力を合わせてずば抜けて優秀であったり、まったく困難を抱えているということはないと思います。そう信じたいです。
『ガラスの海を渡る舟』家族の構造
困った兄のせいで寂しい思いをしている妹。
初めにわたしが『ガラスの海を渡る舟』から読み取った構図がこれでした。
羽衣子さんのほうにとても同情をしました。いま思えばそんなわたしも勝手です。
彼女はもしかしたら、この兄・道さんがいなければこんなに感情の起伏がなかった人かもしれないのです。
本人もそう思って兄を恨んでいると思います。
ただそれが必ずしもいいこと一面ではないと、忘れてはいけないと思いました。
「たった今の自分」を愛すということ
「たった今の自分」は尊重すべき自分だけのものです。
「たった今の自分」は色々な要因があってやっと構成されたものです。
例えば自分の嫌いな面を誰かのせいだと思ってはいけないですし、受け止めてくれない人を振り向かせようと躍起になって自分を否定することもできれば避けていきたいものです。
偏見を取っ払う難しさも、障害だと受け入れる難しさも一緒になったこの作品『ガラスの海を渡る舟』。
くっきりしている2つのモチーフ
『ガラスの海を渡る舟』という小説において特別くっきりとしているのが2つあると思います。
ひとつは、大切な人と歩み寄ろうと時間をかけている登場人物たち。
もうひとつは、「人間とは自分のためより他者のために初めて大きな力を発揮できるものだ」という秘められた人間のパワーです。
相手のことを考えよう。理解しよう。
そうつい言ってしまいがちですがそれほど簡単ではないはずです。
この兄妹たちは、『ガラスの海を渡る舟』を読んでいくうちに「何もせずあぐらをかきながら達成できるだろう」と思い込む読者たちを反省させてくれるでしょう。
いままでお読みした寺地はるなさん作品以上に、とにかくとにかくこちら『ガラスの海を渡る舟』は人が人へ向けるまっすぐな想いが読み取りやすかったと感じます。
とてもすきです。 久しぶりにこうじんと泣きそうになり、時に心温まる読書体験をしました。 『ガラスの海を渡る舟』の家族の形はそのまんま、現代人が知っておくべき生き方だと思います。
終わりに📚
いかがでしたか?
本日は寺地はるなさん著『ガラスの海を渡る舟』の独自書評でした。
- 価格: 1760 円
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寺地はるなさんの小説には現代的深みが多く見られます。
わたしも数多く読了してきていますので、こちらでまた寺地はるなさんの小説書評を書いていきたいと思っています。
また見ていただけたら嬉しいです!
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