書評家・東 莉央の毎日書評

若手書評家、アートカルチャー系ライターをしています。り📚です。元書店員。独自書評や買った本の話、美術館や観劇の記録などをつけていきます。併設趣味ブログhttps://culture76.hateblo.jp/

書評 / いつでも味方になってくれた唯一の人は姉だったから『グッド・シスター』

ADHDのわたしは何もできない人殺し『グッド・シスター』

こんにちは。り📚書評家です。
みなさまいかがお過ごしですか?
 
 
本日は、タイトルから漂うサスペンスの気配とは裏腹に、ひどく切実で、いびつで、それでいてたまらなく愛おしい人間たちの関係性を描き出した傑作翻訳小説をご紹介します。
サリー・ヘプワースさん著、梅津かおりさん訳の小説『グッド・シスター』です。
心理スリラーというジャンルに分類される小説『グッド・シスター』。その中心にあるのは、社会の境界線で生きづらさを抱えるひとりの女性の、あまりにも純粋で不器用な「愛と自立の物語」でした。
 
ページをめくる手が止まらなくなると同時に、登場人物の幸せをこれほどまでに強く祈り、感情移入してしまった作品は久しぶりです。
 

発達障害の妹が企てた「代理母」という名の恩返し

小説『グッド・シスター』物語の主人公のひとりであるファーンは、感覚過敏などの発達障害(ADHD)を抱える女性です。
 
彼女にとって、幼い頃から自分を守り、導いてくれた双子の姉・ローズは、世界で一番の理解者であり、絶対的な庇護者。ファーンの中には、姉に対する非常に強固で確かな「愛着のプロセス」が形成されています。
そのだいすきな姉がいま、夫との間に子どもができない「不妊」という深い悩みを抱え、絶望の淵に立たされている。
 
姉が困っているのなら、わたしが助けてあげたい。
 
ファーンのその純粋すぎる思いは、やがてとんでもない方向へと舵を切ります。
 
頼まれていないのに代理母に?小説『グッド・シスター』
なんと彼女は、誰に頼まれたわけでもないのに自ら「姉の代理母」になることを決意し、あろうことかマッチングアプリの『Tinder』を使って、自分を妊娠させてくれる相手の男性を探し始めるのです。
世間の常識という定規で測れば、あまりにも無謀で危険な行動かもしれません。しかし彼女のまっすぐすぎる論理の裏にある「どうしても姉を救いたい」という切実な愛の形に触れていると、読者は不思議と彼女を否定できず、ハラハラしながらもその背中を見守りたくなってしまいます。

 

図書館で働くファーンの、静かで深い「文学への愛」

小説『グッド・シスター』の主人公・ファーンの日常の居場所は、静かな「図書館」です。
激しい光や音といった感覚のノイズに苦しむ彼女にとって、本に整然と囲まれた図書館は、唯一安心して呼吸ができる聖域のような場所。彼女は図書館で仕事をしています。
 
彼女が作中で見せる、物語や文学に対する考え方はとても穏やかでありながら、その奥底には計り知れない愛と熱意がマグマのように静かにうねっているのが小説『グッド・シスター』の大きな魅力の一つだと感じました。
 
日々こうして本と向き合い、小説の奥にある「喪失と再生」のテーマを探求して書評を書き続けているわたしにとって、ファーンの文学に対する真摯で嘘のない眼差しは、痛いほど共感できるものでした。
不器用だけれど、誰よりも深く物語の力を信じ、愛している。
 
小説『グッド・シスター』を読みながら、主人公・ファーンの透明なキャラクターを大好きになるのに、長い時間はまったく必要ありませんでした。

 

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感覚過敏と自己否定の闇を照らす、IQ140の「彼」

しかしファーンの心の中には常に重い暗雲が立ち込めています。
激しい感覚過敏や、日常的な物忘れ。
 
「自分はいつか、大切なものを壊してしまうのではないか」
 
「他人の命すら奪ってしまうような、取り返しのつかない失敗をするのではないか」
 
そんな強迫観念に近い不安を抱え、常に自分の行動を監視しながら24時間を過ごしている彼女は、どうしても自分の存在を肯定することができません。そんな絶望的な自己否定の最中、彼女はTinderの無謀な計画を通じて、一人の風変わりな男性と出会います。
IQ140を超える天才的な頭脳を持ちながら、過去の何かから逃れるためにオーストラリアへやってきて、現在は家を持たずに暮らしている彼。
 
社会の枠組みから外れてしまった「持たざる者」同士である彼らが交わす会話や、少しずつお互いのいびつさを理解し合っていくプロセスは、驚くほど静かで心地よいものです。
 
支えある不完全な男女
過剰な刺激に苦しむファーンと、高すぎる知能ゆえに世界と軋轢を生んでしまう彼。
ふたりの波長が見事に噛み合い、単なる「恋人関係」という甘やかな枠を軽やかに超え、過酷な世界を生き抜くための「絶対的な人生の居場所(パートナー)」へと成熟していく。
 
小説『グッド・シスター』のその過程がほんとうに美しく、尊いのです。

 

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この二人を引き離す者は、誰であれ「私の敵」だ

小説『グッド・シスター』本作はサイコスリラーとしての巧妙な仕掛けを持っているため、物語が進むにつれて「グッド・シスター(良い姉)」であるはずのローズの隠された顔や、過去の恐ろしい秘密が次第に暴かれ、不穏な影が忍び寄ってきます。
ファーンと彼がようやく見つけた、ガラス細工のように繊細で美しい居場所。それを脅かし、二人の関係を引き離そうとする存在が現れたとき。
 
わたしは読者という安全な立場を完全に忘れ、本気で怒りを感じていました。
「この二人を引き離そうとする者は、それが誰であれ、私の敵になる」と。
 
それほどまでに、小説『グッド・シスター』を読みながらわたしはファーンの幸せを強く祈り、彼女の生きる世界に深く没入していたのです。
小説『グッド・シスター』は、息もつかせぬ極上のサスペンスでありながら、同時に、生きづらさを抱えた人間が「本当の自分を丸ごと受け入れてくれる他者」を見つけるまでの、魂の救済の物語でもあります。
 
愛という名のもとに潜む支配の恐ろしさと、そこから自分の足で歩き出そうとする人間の底知れぬ強さ。どうかあなたも小説『グッド・シスター』にて、ファーンの不器用で勇敢な選択を、最後まで見届けてあげてください。
 
 

終わりに📚

本日は小学館からの翻訳小説小説『グッド・シスター』をレビューしました。

いつもチェックしてくださる皆さま、リアクションをくださる皆さま。

どうもありがとうございます。

 

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以上、り📚書評家でした~!

 

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