り📚書評家による小説のすゝめ

若手書評家、アートカルチャー系ライターをしています。り📚です。元書店員。独自書評や買った本の話、美術館や観劇の記録などをつけていきます。併設趣味ブログhttps://culture76.hateblo.jp/

書評 / 人生の区切りで、いつもあなたに会いにいく『わたしを離さないで』

帰国のたび、霧の中のキャシーに会いにいく。わたしの人生の栞『わたしを離さないで』

こんにちは。り📚書評家です。
みなさまいかがお過ごしですか?
 

【ブルーボトルコーヒーのアイテムをご自宅で】

 
本日は、わたしにとって少し特別な、人生の節目節目で必ず立ち返ってしまう作品についてお話しさせてください。
 
カズオ・イシグロさんの傑作であり、映画化もされた『わたしを離さないで』です。

帰国の儀式としての、DVD鑑賞

わたしは久しぶりに日本に帰国をするたびに、映画『わたしを離さないで』を観ることにしています。
それもサブスクリプションサービスで手軽に再生するのではなく、決まった図書館へ足を運び、DVDを借りて、日本語吹き替え版を観るのです。
 
いまの時代、Amazon PrimeNetflixを開けば、こんな名作映画なら数秒で作品にアクセスできます。
わざわざ移動して、物理的なディスクを借りるなんて、非効率極まりないことかもしれません。
 
けれどわたしにはこの一連の「手間」を含めたルーティーンを崩したくない理由があるような気がします。
 

【人は、香りに導かれる】

 
久しぶりの日本の空気。図書館の静寂。
ディスクをプレーヤーにセットするときのわずかな駆動音。
 
それらを経て、あの霧がかった英国の風景へと没入していく時間は、わたしにとって一種の儀式めいたものになっています。
 
海外での生活で張り詰めていた糸を一度緩め、自分の原点にある感情を確かめるための、大切な時間なのかもしれません。

 

【目を閉じている時間も惜しい本物の読書家へ】

カフカ的」な霧の中で

わたしと『わたしを離さないで』との出会いは、映画ではなく小説が先でした。
 
初めて読んだのは高校生のとき。
Instagramで流れてきたレビューに惹かれ、その文庫本のどこか寂しげで美しい表紙を記憶し、手に取ったのが始まりです。
 
それがわたしにとってのカズオ・イシグロ作品デビューでした。
 
読み始めたときの衝撃は、いまでも鮮明に覚えています。
はっきり言って、それまで読んだことのないジャンルの小説でした。
文字を追えば、そこで何が起きているのか、事象としては理解できます。
けれど「その意味がわからない」。
 
キャシーをはじめとする『わたしを離さないで』の登場人物たちは、わたしたちと同じように学校に通い、絵を描き、恋をします。
しかし彼らの生活には常に薄い膜のような、あるいは深い霧のような違和感が漂っています。
 
彼らは自分たちの残酷な運命をどこか受け入れているようで、それでいて核心には触れようとしない。
目の前しか見えず、その奥に何が潜んでいるのかわからない不安感。
 
のちに大人になって知り合ったカズオ・イシグロファンのある女性がこの独特の感覚を「カフカ的)」と評しているのを目にして、すっと腹に落ちました。
 
高校生のわたしは、その「カフカ的」な霧の中で、必死に彼らの生きる意味を探そうともがいていたのかもしれません。
 
わたしはあろうことか、この陰鬱で救いのない物語に、ディズニーシーの中で齧り付いていました。
 
きらびやかなパレード、楽しげな音楽、作り込まれた「夢の国」の只中で、わたしはひたすら『わたしを離さないで』のページを繰っていました。
そしてその帰りの電車の中でも。
 

【人は、香りに導かれる】

周囲が魔法の余韻に浸っているなか、ひとりで「提供者」たちの運命に思いを馳せている高校生。
いま客観的に思い返すと、「なんだそれ?」と笑ってしまうような光景です。
 
徹底的に管理され、消費されるために生み出された彼らの命と、徹底的に演出された夢の世界。
そのふたつが奇妙にリンクし、現実世界の残酷さをより際立たせていたように思います。
 
「楽しい」や「幸せ」の定義が揺らぐ『わたしを離さないで』のあの瞬間にこそ、この作品の真髄が染み込んできたのかもしれません。

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人生の区切りに置かれた栞として

帰国するたびに映画を観たくなるのは、この作品『わたしを離さないで』がわたしの人生において「悩み」や「迷い」の受け皿になってきたからでしょう。
明日に迷うときに、わたしは映画『わたしを離さないで』、もしくは原作小説に浸りたくなる癖がありました。
 
高校生の頃の漠然とした不安を入り口に。
 
その後、Instagramで読書アカウントを始め、自分の言葉で本を紹介し始めたとき。
憧れだった紀伊國屋書店で、自分がすきな小説だけを集めたフェア台を担当させてもらえたとき。
そしてWebメディアさんから小説の書評執筆のお仕事をいただけるようになったとき。
 
振り返れば、わたしが「書くこと」や「伝えること」「次の人生のステップ」に踏み出す節目には、いつもこの『わたしを離さないで』がありました。
 
わたしは形を変え、言葉を変え、この作品を誰かに紹介してきました。
それはまるで、自分の成長を確認するための定点観測のようです。
 
かつては「不条理への恐怖」として読んでいたものが、あるときは「限りある時間の尊さ」になり、またあるときは「記憶というもののあやふやさ」になる。
読み返すたび、観返すたびに、『わたしを離さないで』のキャシーやトミー、ルースたちが語りかけてくる言葉の意味が変わって聞こえるのです。

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【おいしい紅茶を日本に届ける専門店】

終わりに📚

本日の独自書評では、小説原作の映画『わたしを離さないで』をご紹介しました。

いかがでしたか?

 

ちょっと変わったわたしの習慣と青春期をお伝えする内容となてしまいました。

 

いつもチェックしてくださる皆さま、リアクションをくださる皆さま。

どうもありがとうございます。

 

これからもたくさんのコンテンツを準備してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

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以上、り📚書評家でした~!

 

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