家族との確執が愛おしさを産んだ愛おしい小説『そのあわい』
こんにちは。り📚書評家です。
みなさまいかがお過ごしですか?
本日の独自書評はこちら。
山家望さんによる小説『そのあわい』をレビューします。
小説『そのあわい』は山家望さんにとって、太宰治賞受賞第1作にあたる中編小説です。
- 家族との確執が愛おしさを産んだ愛おしい小説『そのあわい』
- 人も物語も水の中から
- いいように使われるだけの存在で
- 祖父母との縁について小説『そのあわい』
- 子を持ったことで自身の人生を回想する小説『そのあわい』
- 小説『そのあわい』の単行本化を希望します!
- 終わりに📚
人も物語も水の中から
「きみを初めて目にしたのは水の中だった」という書き出しから始まる中編小説『そのあわい』は、子どもが生まれて初めて親になった主人公が、物語を展開していきます。
主人公の家族構成
主人公は両親や姉と兄と一緒に、一家5人の家庭で育ちました。
ごく若い頃に両親が離婚する際、姉は母についていき、兄は父についていくことになり、なぜだか主人公は父方の祖父母の家で暮らすこととなります。
主人公は自分のことを「余った私」と認識しているようでした。
独自の時間軸で語る小説『そのあわい』
当時の複雑な家庭環境を語る主人公はあくまで回想目線であり、小説が時間軸を引き戻すことはありません。
どこか俯瞰して諦めており、語り手が結末を知っているならではの視点で、祖父母との日々が語られていきます。
離婚をした両親どちらにも引き取ってもらえなかった主人公はその後、良くない縁でばかり家族と引き合わされることとなります。
いいように使われるだけの存在で
兄と父が問題を起こしたときにだけ自分は呼ばれて必要とされる。
さらに自分は人として息子や弟として必要とされているのではなく、遺産の持ち主や金の稼ぎ手としてしか必要とされてないということを、小説『そのあわい』はとても無機質に語り出していきます。
祖父母との縁について小説『そのあわい』
一方で家族と離れた後の主人公は、祖父母とのたのしい日々を綴りました。
しかし2世代分年が離れているため、年齢にも体力にもかなりの開きが現れてきます。
自分の大切な唯一の家族である祖父母は、自分と同じように体が利きません。
そのことをとても虚しく思っているはずですが、主人公は無機質に俯瞰するように語っていきます。
感情に蓋をしたと思われるような淡白な語り口にわたしはむしろ、必要以上に悲しみを覚えてしまいました。
大切な祖父母の死を引き金に
小説『そのあわい』の主人公にはいずれ、祖母と祖父が前に亡くなる時が来ます。
命を最後までつないだその時まで共に過ごした祖父とのエピソードは、小説内でとても濃厚に描かれます。
子を持ったことで自身の人生を回想する小説『そのあわい』
小説『そのあわい』は、主人公自身に子ども生まれたことで、自分の人生の中のさまざまな出来事を振り返る小説と受け取ることができます。
しかし山あり谷ありの人生を改装してきたというよりも、わたしは主人公が「生まれてきたばかりの自分の子どもに不器用な愛を捧げるために、自分のこれまでの家族のあり方を回想している」のではないかと受け取りました。
子どもに捧げる不器用な愛
親になった自覚はまだまだ薄いし、自分が親として何をしてあげられるのかわからないけれど「君のことを大切に思っている」という気持ちをなんとか表したくて、自分にとっての家族のあり方についてをたどり、人が生きて死んでいく循環について考えていくのです。
両親や兄弟に見放されなければ祖父母とのたのしい暮らしはなかったし、祖父母と共に暮らして最後を看取ることがなければ、人が「老いるときとは生まれるときに還っていく」ということを知らずに過ごしてしまったのではないかと思いあたる。
そうして自分の人生にまるっと感謝しているような主人公の姿勢が、とても丁寧に描写されている小説だと感じました。
小説『そのあわい』の単行本化を希望します!
こちらの書評を執筆当時、この小説『そのあわい』はまだ単行本化されていません。
素晴らしく濃厚で面白い小説『そのあわい』をぜひ多くの方に読んでいただきたいなと思っています。
小説『そのあわい』は群像2022年3月号にて
小説『そのあわい』2022年3月号の群像で発表されています。
バックナンバーを取り寄せてら小説『そのあわい』読んでいただくことが可能です。
群像の章扉では、小さな赤ちゃんの手元がとても美しく切り取られた明るい写真を採用しています。
こちらの写真とあわせて、ぜひ山家望さんの創作中編小説『そのあわい』をたのしんでいただきましたら幸いです。
終わりに📚
本日の独自書評では小説『そのあわい』をご紹介しました。
素敵な中編小説、ぜひ気になっていただけましたら嬉しいです。
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